歯ぎしり・食いしばりに悩んでいる方へ
歯ぎしり・食いしばりとは?

この癖は無意識のうちに行われることが多く、特に睡眠中に自覚がないまま続けてしまうケースがよく見られます。寝ている間に「ギリギリ」と音を立てながら歯をこすり合わせるため、同じ部屋で寝ている家族から指摘されて初めて気づく方も少なくありません。
歯ぎしりや食いしばりは、「ブラキシズム」と総称され、大きく3つのタイプに分類されます。それぞれ、グラインディング・クレンチング・タッピングと呼ばれるものです。
通常、顎がリラックスしている状態では、上下の歯がわずかに離れており、接触していないのが自然です。この隙間は「安静空隙(あんせいくうへき)」と呼ばれ、個人差はありますが、およそ2ミリ程度のスペースがあります。
しかし、ブラキシズムがある方は、口周囲の筋肉が常に緊張状態にあるため、このスペースがほとんどなくなってしまうことがあります。また、歯ぎしりや食いしばりを続けることで、歯や顎だけでなく、頭痛や肩こり、腕のしびれなど、全身の不調を引き起こすこともあります。
歯ぎしり・食いしばりの原因と放置するリスクについて

歯の摩耗(咬耗)が進行する
歯ぎしりや食いしばりを続けることで、歯の表面が徐々に削れていきます。
エナメル質は人体の中で最も硬い組織ですが、それ同士が長時間強くこすり合わされることで、少しずつ摩耗していきます。このように歯がすり減ることを「咬耗(こうもう)」と呼び、歯ぎしりや食いしばりが習慣化している人では顕著に見られます。
歯科医師は、患者さまの**歯の咬合面(噛み合わせの面)**をチェックすることで、歯ぎしりや食いしばりの有無を判断することができます。
知覚過敏の発症リスクが高まる
歯ぎしりによってエナメル質がすり減ると、内部の象牙質が露出し、神経までの距離が短くなるため、知覚過敏が起こりやすくなります。
冷たいものや熱いものがしみる「象牙質知覚過敏症」は、軽度であれば自然に治ることもありますが、症状が進行すると日常生活にも支障をきたし、治療が必要になるケースが多くなります。
歯周病の悪化を招く
歯周病は、細菌感染によって引き起こされる歯周組織の病気ですが、歯ぎしりや食いしばりが加わることで、その進行を加速させる要因となります。
すでに歯周病が進行している場合、歯ぎしりによって弱った歯や歯茎に余計な負担がかかり、歯の揺れが大きくなることで症状が悪化します。
また、歯ぎしりが原因で「咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)」と呼ばれる病態が生じ、歯周組織にダメージを与えることもあります。
顎関節症の発症につながる
下顎は、顎関節を介して上顎とつながっています。歯ぎしりによって下顎を前後左右に強く動かすと、顎関節に大きな負担がかかり、炎症や腫れ、痛みなどを引き起こすことがあります。
その結果、口の開閉がスムーズにできなくなったり、偏頭痛が発生したりするのが「顎関節症」です。症状が進行すると、口を開ける際に「カクカク」と音が鳴る、痛みで口が開けづらいといった問題が生じることがあります。
歯並び・噛み合わせが悪化する
歯ぎしりや食いしばりが続くことで、歯に過剰な咬合圧(噛む力)がかかり続けるため、歯並びや噛み合わせが少しずつ変化していきます。
これにより、すきっ歯になったり、見た目が悪くなるだけでなく、食事の際にしっかりと咀嚼(そしゃく)ができなくなったり、歯磨きがしにくくなって清掃性が低下するなど、さまざまな問題が生じます。
こうした変化は、歯の寿命にも影響を与えるため、歯ぎしり・食いしばりの兆候がある場合は、早めに適切な治療を受けることが重要です。
当院の歯ぎしり・食いしばりの主な治療方法
マウスピース(ナイトガード)治療

歯ぎしりや食いしばりの治療として、最も一般的で広く用いられている方法のひとつです。
ボトックス治療(ボツリヌストキシン注射)

ボトックス治療を行うことで、咬筋(噛む筋肉)の過剰な働きを抑制し、食いしばりの力を弱めることができます。その結果、歯や顎への負担を軽減し、歯ぎしりが原因で起こる症状を緩和する効果が期待できます。
歯列矯正・かみ合わせ治療

矯正治療を行うことで噛み合わせのバランスが整い、特定の歯や顎に過度な負担がかかるのを防ぐことができます。その結果、歯ぎしりや食いしばりの頻度が減少し、顎関節へのダメージも軽減される可能性があります。
歯ぎしりや食いしばりによって歯が割れたり、欠けたりする前に、早めに歯科医院へ相談することが重要です。その際、歯ぎしりや食いしばりの癖があることを歯科医師に伝えることで、適切な治療法を提案してもらえます。
ボトックス治療のメリット・デメリット
メリット
- 歯ぎしりや食いしばりの力が弱まり、歯や顎への負担を軽減できる
- 顎関節への負担が減り、顎関節症のリスクを低減できる
- 咬筋(噛む筋肉)の過緊張が緩和され、頭痛や肩こりが軽減する可能性がある
- 強い咬合圧による歯の破折(歯が割れる、ヒビが入る)を防ぐ
- セラミックの被せ物やインプラントの上部構造を保護できる
- 歯の摩耗や欠けを防ぎ、知覚過敏のリスクを軽減できる
- 舌や頬に歯の跡(圧痕)がつくのを防ぐことができる
- 歯ぎしり・食いしばりによって歯周病が悪化するのを防げる
- 咬筋の過剰な発達によるエラの張りが和らぎ、フェイスラインがスッキリする
- 歯ぎしりが原因で発生する睡眠障害の軽減が期待できる
- 一度の注射で効果が一定期間持続するため、継続的な治療が可能
- ストレスが軽減し、無意識の食いしばりが抑えられる可能性がある
- 歯のすり減りを予防し、歯の寿命を延ばすことにつながる
デメリット
- 一時的に咬む力が弱くなるため、食事時に違和感を感じることがある
- 筋肉へ直接注射を行うため、痛みや内出血を伴うことがある
- 施術後、食べ物を噛んだ際に違和感を感じることがある
- 妊娠中や授乳中の方には施術できない
- 一度の注射で永久的な効果は得られず、数ヶ月ごとに継続的な施術が必要
- 施術後に内出血を起こす可能性がある
- ボトックスの影響で咬筋が萎縮すると、肌のたるみが生じることがある
ボトックス治療は、歯ぎしりや食いしばりによる負担を軽減し、顎の健康を守る効果が期待できる一方で、施術に伴うデメリットや制限も存在します。治療を検討する際は、事前に歯科医師と十分に相談し、自分に適した方法かを判断することが大切です。
ボトックス治療の流れと所要時間
施術の流れと治療時間

1 かみ合わせやお口の中の状態をチェック

2 施術部位のメイクを落とします

3 表面麻酔を塗布し、ボトックス注射を行います

4 注射後3~7日程度で効果が現れ、約4~6か月間持続
効果の持続期間と注意点

重要なのは、ボトックス治療は永久的な解決策ではなく、一定期間ごとに施術を継続する必要があるという点です。効果の持続期間には個人差があり、患者さまの生活習慣、体質、筋肉の発達具合、注射の部位などによって異なるため、一律ではありません。
そのため、適切なタイミングで施術を継続することが、歯ぎしり・食いしばりの症状を安定的に管理するうえで重要になります。ボトックス治療を検討されている方は、定期的な経過観察を行い、症状に応じた最適な治療間隔を歯科医と相談することが推奨されます。
ボトックス治療の料金と保険適用について
保険適用は可能?医療費控除の対象になる?

ただし、歯ぎしりや食いしばりの治療目的で行われるボトックス注射は、医療費控除の対象となる可能性があります。確定申告の際に医療費控除を申請することで、一部の費用が還付される場合があるため、治療費の領収書は大切に保管しておくことをおすすめします。
なお、医療費控除の適用条件や申請方法は、個々の状況によって異なるため、詳細については税務署や専門家に相談すると安心です。
歯科医院と美容外科でのボトックス治療の違い

一方で、歯科医院で行うボトックス治療は、歯ぎしり・食いしばりの改善や、噛み合わせの調整といった機能面を重視した治療が特徴です。咬み合わせや歯の健康に精通した歯科医師が施術を行うことで、単に口元の見た目を整えるだけでなく、歯や顎関節にかかる負担を軽減し、より健康的で快適な口腔環境を実現することが可能です。
そのため、ボトックスを用いた治療を検討する際には、口元の美しさだけでなく、咬み合わせや機能面までしっかりと考慮したい方には、歯科医院での施術がおすすめです。
ボトックス治療の費用について
ボトックス治療(3点法)※初回と女性の方 | 39,600円(税込) |
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ボトックス治療(5点法) | 60,500円(税込み) |
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※自由診療となります。
ボトックス注射(3点法)は、両側の咬筋へそれぞれ3点注射1回の料金となります。
ボトックス注射(5点法)は、両側の咬筋へそれぞれ5点注射1回の料金となります。3点法より高い効果が期待できます。
ボトックス治療に関するよくある質問
- ボトックス治療は、歯ぎしりや食いしばりによる筋肉の過剰な緊張を緩和し、顎関節への負担を軽減します。これにより、顎関節症の症状改善や、エラの張りの軽減にも効果が期待できます。
- 注射に使用する針は極細であり、施術時の痛みは最小限です。多くの患者様は「チクッとする程度」または「わずかな刺激を感じる程度」とおっしゃいます。痛みが不安な方には、表面麻酔を併用することも可能です。
- 一般的に3~6ヶ月間効果が持続します。時間の経過とともに徐々に効果が薄れますが、継続的に施術を受けることで、症状の改善が期待できます。
- はい。ボトックスは咬筋の働きを抑制し、食いしばりや歯ぎしりの力を弱めるため、これらの症状の軽減に効果的です。また、関連する頭痛や肩こりの改善も期待できます。
- 以下の症状にお悩みの方に適しています。
• 歯ぎしり・食いしばりが強く、歯や顎関節に負担を感じている方
• 顎関節症の症状がある方(顎の痛み、口の開閉がスムーズでない)
• エラの張りが気になる方(筋肉の過緊張によるもの)
- 施術は、ボツリヌストキシンを咬筋に直接注射することで行われます。これにより筋肉の過剰な収縮を抑え、歯ぎしりや食いしばりの力を緩和します。
- はい。施術直後から通常の生活に戻ることが可能です。ただし、施術当日は激しい運動や高温環境(サウナ・長時間の入浴)を避けることが推奨されます。
- 副作用はほとんどありませんが、注射部位の赤みや腫れが一時的に現れることがあります。また、ごく稀に内出血が起こることもありますが、数日以内に自然に消退します。
- 直接的な影響はありませんが、歯ぎしりや食いしばりが歯周病を悪化させる原因の一つであるため、これらの習慣を軽減するボトックス治療は間接的に歯周病の進行を防ぐ効果が期待できます。
- 3~6ヶ月に1回の施術が一般的です。症状の改善度や個人差により適切な頻度が異なるため、歯科医師と相談しながら治療計画を立てることをおすすめします。
- 特別な準備は必要ありません。ただし、現在服用中の薬剤やアレルギーの有無、既往歴を歯科医師に伝えることが重要です。
- 歯科でのボトックス治療は原則として保険適用外となり、自費診療となります。
- 治療後の数時間は、以下の点に注意してください。
• 施術部位を強くこすらない
• サウナや長時間の入浴を避ける(血流が良くなると薬剤が広がる可能性があるため)
• 施術当日の激しい運動を控える
これらの注意を守ることで、ボトックスの効果をより高めることができます。
- ボトックス治療は安全性が高い施術ですが、以下のようなリスクがまれにあります。
• 注射部位の軽い腫れや内出血(数日で消失)
• 一時的な違和感や噛みづらさ(数日~数週間で解消)
• 極めてまれにアレルギー反応が起こることがある
異常を感じた場合は、速やかに歯科医師へご相談ください。